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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1271号 判決 1990年6月28日

原告

加藤勝廣

ほか一名

被告

井村貴春

ほか二名

主文

一  被告らは、各自原告加藤勝廣に対して、金二九九万九三六八円、原告加藤道子に対して、金二四九万九三六八円及び右各金員に対し昭和六二年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの、その三を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  原告ら

(一)  被告らは、各自原告加藤勝廣に対して、金四〇六万〇三五二円、原告加藤道子に対して、金三五六万〇三五二円及び右各金員に対する昭和六二年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

(三)  右(一)につき、仮執行宣言。

2  被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

二  当事者双方の主張

1  原告らの請求原因

(一)  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。

(二)(1)  被告井村貴春(以下、被告貴春という。)は、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していた。

右事故は、右被告の前方注視を怠つた過失により発生した。

(2)  被告井村國春(以下、被告國春という。)、同井村まさ子(以下、被告まさ子という。)は、被告貴春の父母であるところ、被告貴春は、中学校を卒業した後も就職せず収入のない者である。

被告貴春が右状態であつたから、被告車の実質的購入者は、被告國春、同まさ子であり、被告國春、同まさ子が、右車両のガソリン代等の諸費用も全て負担していた。

(3)  右事実から、

被告貴春は、自賠法三条、もしくは民法七〇九条により、被告國春、同まさ子は、被告車の実質的所有者であり、自己のための運行に供していた者であるから、自賠法三条により、各自原告らの本件損害に対する賠償責任を負う。

(三)  亡宏及び原告らの本件損害

(1) 亡宏分

(a) 死亡による逸失利益 金二一七八万九〇六四円

ⅰ 亡宏は、本件事故当時、一六才で高等学校に在学中であり、右事故に遭遇しなければ高等学校を卒業し平均余命の範囲内で六七才まで就労可能であつた。

したがつて、同人の右就労可能期間は、一八才から六七才までの四九年間ということになる。

ⅱ 同人の本件逸失利益算定の基礎収入は、昭和六二年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計による男子高卒者の平均賃金とするのが相当である。

ⅲ 同人の生活費控除率は、五〇パーセントが相当である。

ⅳ 右各資料を基礎として、同人の本件死亡による逸失利益の現価額を、ホフマン式計算法にしたがつて算定すると、金二一七八万九〇六四円となる。

193万2100円×(1-0.5)×22.5548=2178万9064円

(b) 慰謝料 金一五〇〇万円

亡宏の本件死亡による慰謝料は、金一五〇〇万円が相当である。

(c) 亡宏の本件損害の合計額 金三六七八万九〇六四円

(2) 原告ら分

葬儀費 金一〇〇万円

原告らは、亡宏の葬儀費金一〇〇万円をそれぞれ二分の一ずつ負担した。

(3) 原告らの本件損害額

(a) 相続分 各金一八三九万四五三二円

原告らは、亡宏の父母として、亡宏の本件損害合計金三六七八万九〇六四円の各二分の一宛各金一八三九万四五三二円を各相続した。

(b) 固有分 各金五〇万円

亡宏の葬儀費金一〇〇万円の二分の一相当。

(c) 原告ら各自の本件損害合計金額 各金一八八九万四五三二円

(四)  過失相殺

亡宏は、被告貴春の運転する被告車の後部座席に同乗していて本件事故に遭遇したものであり、所謂好意同乗に該当する。

したがつて、亡宏にも右事故に対する過失が認められるところ、同人の右過失割合は、一五パーセントである。

(五)  損害の填補

原告らは、本件事故後、亡宏の本件損害に関して自賠責保険金金二五〇〇万円を受領した。

そこで、原告らの本件各損害額を前記過失割合で所謂過失相殺をし、その後の右各損害額から右受領金の二分の一に当たる各金一二五〇万円を控除すると、その残額は、各金三五六万〇三五二円となる。

(六)  弁護士費用 金五〇万円

原告加藤勝廣が、本件弁護士費用金五〇万円を負担した。

(七)  よつて、原告らは、本訴により、被告ら各自に対して、原告加藤勝廣において本件損害合計金四〇六万〇三五二円、原告加藤道子において同損害合計金三五六万〇三五二円及び右各金員に対する本件事故日である昭和六二年七月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

2  請求原因に対する被告らの答弁及び抗弁

(一)  答弁

請求原因(一)、同(二)(1)の事実は認める。同(2)中被告國春、同まさ子が被告貴春の父母であることは認めるが、同(2)のその余の事実は否認。被告貴春は、本件事故当時就職しており収入も有り、被告車の購入費維持費等も同人において支出しており、被告國春、同まさ子は、被告車の保有者でも運行供用者でもない。同(3)の主張は争う。同(三)(1)中亡宏が本件事故により死亡したことは認めるが、同(三)のその余の事実及び主張は全て争う。同(四)の事実は認めるが、その主張は争う。亡宏の本件事故発生に対する過失は後記抗弁において主張するとおり極めて大である。同(五)中原告らが本件事故後自賠責保険金金二五〇〇万円を受領したことは認めるが、同(五)のその余の事実及び主張は争う。同(六)の事実は不知。同(七)の主張は争う。

(二)  抗弁

(1) 過失相殺(好意同乗)

(a) 亡宏が本件事故当時被告貴春の運転する被告車の後部座席に同乗していたことは、前記のとおりである。

(b) 亡宏は、被告貴春と中学校一年生当時からの同級生であつた仲であり、被告貴春の運転する被告車には本件事故以前にも六~七回同乗したことがある。被告貴春が被告車の運転免許(自動二輪車)を取得したのは昭和六二年五月二六日で、同人は、それから一年間他人を被告車に同乗させてはならなかつた。しかるに、亡宏は、右事実を熟知していながら、自分用のヘルメツトまで購入し、被告車に常習的に同乗していた。同人は、右事故当日も、被告貴春に対して、「どこかへ行こう。」等と誘い掛けて自ら被告車への同乗を指示している。

(c) 本件事故の主たる原因は、被告貴春の脇見運転(前方不注視)にあるが、同人が右脇見運転をしたのは、被告車の後部座席に同乗していた亡宏の次の行為による。

即ち、亡宏は、被告車が右事故現場付近の姫路カワサキモータース前(同車両の進行方向の左側に所在。)に差し掛かつた際、同店の店頭に陳列されていた車両を指さして「新しい単車があるでえ。」等と被告貴春に声を掛けたためである。

しかも、亡宏が右事故当時着用していたヘルメツトには、顎紐がなかつた。(右顎紐があつたならば、ヘルメツトが飛ばず、亡宏も、死亡するに至らなかつたと思われる。)

(d) 以上の各事実を総合すれば、損害の公平負担・信義則の見地から過失相殺ないし好意同乗により、亡宏の本件損害、したがつて又原告らの本件損害額を五〇パーセント減額すべきである。

(2) 損害の填補

原告らは、前記自賠責保険金の外に被告らから金二〇万円の支払を受けている。

原告らの本件損害は、右既払金の合計額によつて全て填補されている。

3  抗弁に対する原告らの答弁

(一)  過失相殺(好意同乗)関係

抗弁事実(a)は認める。同(b)中亡宏が本件事故以前に一~二回被告貴春運転の被告車に同乗したことがあつたことは認めるが、同(b)のその余の事実は全て否認。被告貴春が、本件事故当日、亡宏に対し、「どこかへ行こう。」と声を掛け、同人がその誘いに応じたものである。同(c)中本件事故の原因が被告貴春の脇見運転(前方不注視)にあること、亡宏が本件事故当時ヘルメットを着用していたことは認めるが、同(c)のその余の事実は全て否認。同(d)中本件が好意同乗に該当することは認めるが、その主張は争う。本件においては、亡宏の本件損害、したがつて又、原告らの本件損害の減額は一五パーセントが相当である。

(二)  損害の填補関係

抗弁事実中原告らが被告ら主張にかかる自賠責保険金を受領したことは認めるが、その余の抗弁事実は全て否認し、その主張は争う。

3  証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因(一)の事実(本件事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二1  請求原因(二)(1)の各事実(被告貴春の責任原因)は、当事者間に争いがない。

右事実に基づけば、被告貴春には、自賠法三条により、原告らの本件損害(以下、特に断らない限り、亡宏の本件損害をも含む。)を賠償する責任がある。

なお、自賠法は民法の特別法と解するのが相当であるから、右説示のとおり被告貴春に自賠法三条による本件責任が肯認される以上、同人につき民法七〇九条による責任の存否につき判断をする必要を見ない。

2  次に、被告國春、同まさ子の本件責任原因について判断する。

(一)  右被告らが被告貴春の父母であることは、当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない乙第五号証、被告貴春本人、同まさ子本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告貴春が、昭和六二年三月稲美町立中学校を卒業し、それと同時に加古川市内の鉄工所に就職したが、二日で退職したこと、同人が、その後、二か月程就職せず、稲美町所在の自動車学校に通い、同年五月二六日、自動二輪免許(中型二輪)の運転免許を取得したこと、同人が、同年六月初旬頃から加古川市内所在の塗装店に勤務するようになり、一か月約金一〇万円の収入を得ていること、同人が、同年五月三〇日頃、加古川市内所在の自動車等販売店から被告車を代金金六四万円で購入したこと、被告國春も同まさ子も、被告貴春の右購入を事後承諾したこと、被告貴春が右購入時一六歳であつたから右購入の売買契約書に父母である被告國春同まさ子の署名を要したところ、右被告両名は、被告國春において多少危惧の念を表明したものの、結局、右契約書に同意の趣旨の署名をしたこと、被告貴春が、右購入代金の内金一〇万円を右代金の頭金として被告まさ子から用立ててもらつたこと、被告國春もそれを了解していたこと、ただ、右購入代金のその余の分についてはローン支払とし、被告貴春が、同人の右塗装店から得る収入から、一か月金三万五〇〇〇円の割合で支払つていたこと、又、同人が、右収入から右車両のガソリン代等を支払つていたが、被告まさ子がたまに負担することもあつたこと、被告貴春は、被告まさ子と同居し食費等生活費の一切を被告まさ子に負担してもらつていること、被告まさ子は、本件事故当時も現在も、被告國春と別居しているが、その生活費は被告國春の負担となつていること、被告車は被告まさ子、同貴春の居宅庭先に常時駐車してあり、右車両のエンジンキーも右居宅内の人目につきやすい場所に置かれていて、被告貴春が右車両を使用する状況は、被告まさ子において十分知り得たこと、が認められ、右認定を履すに足りる証拠はない。

(三)  右認定各事実を総合すると、被告國春、同まさ子は、被告車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたというべきであつて、右車両の運行供用者に該当すると解するのが相当である。(最高裁昭和五〇年一一月二八日第三小法廷判決民集代二九巻第一〇号一八一八頁参照)

よつて、被告國春、同まさ子も、自賠法三条により、原告らの本件損害を賠償する責任を負うというべきである。

3  しかして、被告ら三名の本件損害賠償責任は、不真正連帯関係に立つと解するのが相当であるから、右被告らは、連帯して原告らの本件損害を賠償する責任を負うというべきである。

三  原告らの本件損害

1  亡宏分

(一)  死亡による逸失利益 金二一七四万八四六六円

(1) 成立に争いのない乙第四号証、第九号証、原告加藤道子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、亡宏は、本件事故当時、神戸市内に所在する工業高等学校一年に在学し、一六才の健康な男子であつたことが認められ、右認定を履すに足りる証拠はない。

(2) 同人は、右高等学校を卒業した一八歳から六七歳までの間就労可能であつたと推認するのが相当である。

(3) 亡宏の本件逸失利益算定の基礎収入は、昭和六二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者一八歳~一九歳の平均賃金年収金一九二万八五〇〇円と認めるのが相当である。

(4) 亡宏の生活費控除は、右収入の五〇パーセントと認めるのが相当である。

(5) 右認定の各資料を基礎として、亡宏の本件逸失利益の現価額を、ホフマン式計算法にしたがつて算定すると、金二一七四万八四六六円となる。(ただし、新ホフマン係数は、原告らの主張する二二・五五四八にしたがう。円未満四捨五入。以下同じ。)

192万8500円×(1-0.5)×22,5548≒2174万8466円

(二)  慰謝料 金一五〇〇万円

亡宏の本件死亡による慰謝料は、金一五〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)  亡宏の本件損害合計額 金三六七四万八四六六円

2  原告らの分

葬儀費 金一〇〇万円

原告加藤道子本人尋問の結果によれば、原告らは亡宏の葬儀費として約金二五〇万円を支出したことが認められるが、その内本件事故と相当因果関係に立つ損害としての葬儀費は、金一〇〇万円と認める。

3  原告らの本件損害額

(一)  相続分 各金一八三七万四二三三円

前掲乙第九号証及び弁論の全趣旨によれば原告らは亡宏の父母であることが認められる故、同人らは、亡宏の相続人としてその法定相続分にしたがい、同人の本件損害合計金三六七四万八四六六円の賠償請求権の各二分の一ずつ、即ち、各金一八三七万四二三三円を相続したというべきである。

(二)  原告ら固有分 各金五〇万円

亡宏の葬儀費金一〇〇万円の各二分の一相当。

(三)  原告らの本件損害合計額 各金一八八七万四二三三円

四  好意同乗による減額(被告らの抗弁)

1  亡宏が本件事故当時被告車の後部座席に同乗していたこと、右事故の原因が被告貴春の脇見運転(前方不注視)にあること、本件が好意同乗に該当することは、当事者間に争いがない。

2(一)  前掲乙第五号証、成立に争いがない乙第二、第三号証、第六号証、被告貴春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(1) 被告貴春と亡宏とは、稲美町立中学校一年の時知り合つて以来の友人であり、被告貴春が被告車を購入してから後本件事故までの間、同人は、六~七回にわたり亡宏を右車両の後部座席に同乗させたうえ、これを走行させた。

被告貴春は、自動二輪免許を取得した直後、亡宏を含む友人達に、被告車の二人乗りは一年間できない旨申し向け二人乗りを断つていたが、その内に断り切れなくなつて右車両の二人乗りをするようになつた。

亡宏は、右二人乗りのため、自分用のヘルメツトを用意していた。

(2) 被告貴春が本件事故当日午後一時頃帰宅したところ、被告まさ子から、亡宏から電話があつた旨告げられた。そこで、被告貴春は、その後、亡宏宅に電話し、亡宏と通話したが、その際、同人から「どこかへ行こうか。」と誘われ、これに応じた。

被告貴春が、それからしばらくして被告車を運転し亡宏宅に赴くと、亡宏が、同人宅横で、前記ヘルメツトを持ち被告貴春の到来を待つていた。

被告貴春は、亡宏を被告車の後部座席に同乗させて右車両を運転して加古川市内所在のスーパーに赴いた。

(3) 被告貴春と亡宏は、その後、右スーパー内でぶらぶらして時を過ごし、同日午後四時少し前頃、右店舗を出て、被告貴春は被告車の運転席に、亡宏は右両の後部座席に、それぞれ乗車し右市内に所在する次の遊び先に向かつた。

被告貴春は、被告車を運転して、右市内の明石市方面から高砂市方面に通じる国道二号線(南北を民家に挟まれた、北側幅員三・六メートルの東行き車線と、南側幅員三・四メートルの西行き車線との二車線から成り、本件事故現場付近ではやや右にカーブしているアスフアルト舗装路。しだかつて、被告車の進行方向からすると、前方の見通しは良好であるが、左右の見通しは悪い。)の西行き車線上を、時速約六〇キロメートルの速度(制限速度は、時速五〇キロメートル。)で西進していたところ、右事故現場から約六二・六メートル東方の地点付近に差し掛かつた際、後部座席の亡宏から「新しい単車があるでぇ。」と声を掛けられた。

そこで、被告貴春は、自車前方を見たところ、約二九・五メートルの地点付近を先行する訴外青木ひふみ運転の普通乗用自動車を認めた。しかし、被告貴春は、車間距離十分と軽信し、進行速度を減じることもなく右先行車両の動向から目を離し、自車左前方に所在する姫路カワサキモータース(単車の専門販売店)の方に目を向けた。同人も亡宏も単車に興味を持つており、被告貴春は、以前にも右店舗前を通つた際、右店舗店頭に陳列してあつた単車を眺めたりしたことがあつたので、本件事故直前にも、目を右店舗の方に向けたのである。

そして、被告貴春は、「いい単車があるなあ。」と思いつつ目を前方に向けたところ、自車と右先行車両との間隔は約一〇メートルにちじまり、折りから、右先行車両は、右国道二号線とほぼ十字型に交差している南北道路を南方に向け左折しかかつていた。

被告貴春は、自車と右先行車両との車間が右距離に接近して初めて衝突の危険を感じ、急ブレーキを掛けたが間に合わず、自車前部を右先行車両右後部に衝突させ、本件事故を惹起した。

なお、右事故当時、被告貴春も亡宏も、ヘルメツトを着用していたが、亡宏のそれには顎紐がなかつた。

(二)  右認定に反する原告加藤道子本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を履すに足りる証拠はない。

なお、成立に争いのない甲第一号証の記載内容は、昭和六二年九月一〇日付被告貴春及び被告まさ子連名にかかる本件事故の経緯その態様に関するものであり、しかも、右認定に反するものであるが、右原告本人、右被告両名本人尋問の各結果(ただし、右原告本人の供述中後記認定に反する部分は、にわかに信用できないからその部分を除く。)によれば、右書面は、原告らと同人らの友人である訴外内橋吉雄(訴外福山通運勤務の運転手)の三人が右被告両名宅で右被告両名と面接のうえ作成されたものであること、右内橋が、右文書作成に際して、被告貴春に対し威圧的言動を示し、同人がこれに畏怖感を抱いたこと、右文書の内容が必ずしも被告貴春の自由意思によるものでなく、予め原告らの意図するところにそつたものである疑いがあることが認められ、右認定各事実に照らし、にわかに信用できず、しだかつて、右文書の内容も、右(一)の認定を妨げるまでに至らない。

3  右認定に基づくと、亡宏が所謂好意同乗者に該当することは明らかである。

しかして、本件のような所謂好意同乗の事案においては、損害の公平な分担という損害賠償法の基本理念に照らし、信義則上当該損害額から相当額を減額するのが相当である。そこで、本件においても、右見地にしたがい、原告らの本件損害額から相当額を減額するのが相当であるところ、前記認定の各事実を総合して認められる一連の事実関係に基づけば、原告らの前記認定各損害額から二〇パーセントの減額をするのが相当である。

右減額後における原告らの本件損害額は、各金一五〇九万九三八六円となる。

五  損害の填補(被告らの抗弁を含む)

1  原告らが本件事故後亡宏の本件損害に関し自賠責保険金金二五〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがなく、被告まさ子本人尋問の結果によれば、被告らが右事故後原告らに対して金二〇万円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定に基づくと、原告らが受領した右合計金二五二〇万円は、原告らの本件損害に対する填補として、同人らの前記各損害額からその二分の一宛各金一二六〇万円を控除すべきである。

右控除後における原告らの本件各損害額は、各金二四九万九三六八円となる。

六  弁護士費用 金五〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らにおいて弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その費用を原告加藤勝廣において負担したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ損害としての弁護士費用は、金五〇万円と認める。

七  結論

1  以上の前認定説示に基づき、原告らは、各自被告らに対して、原告加藤勝廣において本件損害合計金二九九万九三六八円、原告加藤道子において同損害合計金二四九万九三六八円及び右各金員に対する本件事故日であることが当事者間に争いのない昭和六二年七月三一日から支払ずみまで民法所定年五分に割合による各遅延損害金の支払いを求める各権利を有するというべきである。

2  よつて、原告らの本訴各請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから、これらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六二年七月三一日午後四時頃

二 場所 加古川市野口町坂元六三七番地の一先路上

三 加害(被告)車 被告井村貴春運転の自動二輪車

四 被害者 被告車同乗の訴外亡加藤宏

五 事故の態様 被告車が、本件事故現場において、訴外青木ひふみ運転の普通乗用自動車(折りから左折中)に追突した。

六 事故の結果 訴外亡加藤宏が、路上に転倒して死亡。

以上

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